非計測的形態変異の出現頻度からみた日本人の変遷


骨から探る日本人

 形質人類学では骨格の形態を調べることによって人類の起源を探ることができる。人骨の形態的な特徴は次の2つの性質に分けて記述される。

(1) 骨格のさまざまな部位の長さや角度。

(2) 個体によってあったりなかったりする形質の有無。

 (1)の性質は遺伝的に隔離された集団の中でも環境変化に伴う生活習慣などの違いによって異なるのに対し、(2)はそれらの影響を受けない。本学医学部の百々幸雄教授は(2)の性質に基づいてさまざまな時代や地域の人々の骨格を調べ,日本人のルーツを研究している。


 形態小変異

 百々教授は日本人の起源を考える上で重要な形質として頭蓋の22項目を挙げている。その一部を図1に示した。これらの形質は個体によってあるものとないものがあり,形態小変異と呼ばれる。例として図2に前頭縫合ならびに眼窩上孔の有無について示した。形態小変異の出現する頻度は隔離された集団ではほとんど変わらないが,集団間では異なることがある。図3には,形態小変異の研究結果に基づく各時代・各地域の集団間の類縁関係を示した。この図では類縁関係の程度を各集団間の距離で示しており,近接する集団ほど類縁関係は近い。


 

形態小変異からみた日本人

 百々教授による形態小変異の出現する頻度からみた日本人についての研究結果は次のようにまとめることができる。

(1) 縄文人集団と北部九州の弥生人集団では形態小変異の出現する頻度は大きく異なる。

(2) 弥生時代以降、本土の集団における形態小変異の出現する頻度は変化していない。

(3) 現代のアイヌの集団と縄文人集団とでは形態小変異の出現する頻度は類似する。

(4) 沖縄の集団と本土の集団とでは形態小変異の出現する頻度には差がない。

以上のことから,縄文人集団と弥生人集団とは系統の異なる2つの集団と考えられる。また,アイヌは縄文人の系統に,本土の集団は弥生人の系統にそれぞれ属することを示している。