現地の調査は、吉林省長春もしくは延吉を起点として、中国国内の白頭山山頂はもとよりその周辺各地を車で調査しました。平成17年には、朝鮮国内での調査も実施しました。
現地の調査では、道路沿いや沢沿いの露頭(地層が露出するところ)で火山噴出物や岩石を観察します。基本的に地層は古い順に下から上へ重なっているので、層の重なりを調べることで、噴火の順序を知ることができます。多くの地点で露頭を観察し、総合的に判断することで、どのような噴出物がどのような順序で噴出してきたのか、また、噴火の様子はどのようなものであったかを知ることができます。調査はできるだけ広い地域で行い、噴出物がどこまで分布しているのかを調べ、噴出物量を求めます。このように複数の露頭を観察することで噴火をより詳しく知ることができますが、十分な露頭があるわけではありません。その場合には、ボーリングやトレンチ(溝)を掘って人工的に露頭断面をつくって調査を行います。堆積物がよく保存されている湖や池では、掘削器具を用いてボーリング試料を採取することで、10世紀噴火を含む白頭山の噴火の歴史情報がつまった重要な試料を得ることができます。調査時には、理化学的な年代測定によって噴火年代を推定するための試料(埋没樹幹、炭化木)を採取することも重要な課題のひとつです。
国境警備と防火週間
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中国・朝鮮国境付近の調査では、調査の年ごとに状況が大きく変わってきます。白頭山の東側の国境の図們江には国境線に平行して道路があります。この道路沿いは10世紀噴火の噴出物をよく観察できる大変よい調査ルートです。しかし、ある年は道路の入口で立入を禁止され、またほかの年では立入できましたが、調査途中で公安(中国の警察)に止められて追い返されたりもしました。国境沿いということもあり、軍用車が見回りで巡回している時がありますが、出会っても何も注意されず、順調に調査を行えた年もありました。このように、調査を実施した8年間では現地に行ってみない限り調査が可能かどうかは状況をつかめないなど、難しいところがありました。何故このようになるのか本当のことはわかりませんが、やはり、その時々の国境を挟んだ政治情勢によっていることは間違いないのではないでしょうか。
調査を困難にするもう一つの要因として、防火対策があげられます。白頭山の山麓はモミやカラマツなどの森林地帯が広がっており、秋の乾燥した時期には山火事が危惧されます。山火事が発生した場合には両国にまたがって火が広がる恐れがあるため、この時期は防火週間として厳重な警戒がなされます。具体的には森林局の許可者以外の森林地域への入場は禁止され、ライター等の火気の持ち込みを行った場合には厳しく罰せられます。秋は気候がよく、また草木が枯れて露頭を探しやすくなることから、調査開始当初には10月中に調査を実施したことがありますが、この時には防火週間のために山麓地域の調査が実施できなくなってしまい、調査の3分の1の内容変更を余儀なくされたこともあります。