南三陸の海岸沿いに分布する大沢層からは、前期三畳紀のアンモナイトが多数産出しています。大沢層のアンモナイトの研究が進んだのは1960年代以降で、とくに70年代以降、坂東祐司を中心に研究が進められました。その後の報告を加えると、これまでに20属に達しています。
大沢層からは、世界最古の魚竜のひとつであるウタツギョリュウの化石も発見されています。よく恐竜と混同されますが海にすむハ虫類で、くちばしには細かな鋭い歯が並んでいます。大沢層のアンモナイトは、このウタツギョリュウの格好の餌食となっていたことでしょう。
大沢層のアンモナイトはコルンビテス動物群に属しています。コルンビテス動物群は、北米西海岸地域や中国など、当時低緯度にあった大陸縁辺の浅い海で堆積した地層から知られています。三畳紀においても南部北上古陸が低緯度地帯にあったことがわかります。
北上山地の中期三畳紀アンモナイトは、石巻周辺を中心に、風越層・伊里前層から産出します。明治時代の近代地質学黎明期に、わが国のアンモナイト化石をはじめて記載したモイシソビッチ(1888)の標本も石巻産でした。石巻周辺の三畳紀アンモナイトはその後、ディーナ (1916)、清水三郎 (1930)、 坂東祐司 (1964, 1967)、その他によって記載・研究されました。伊里前層のアンモナイトは20cmをこえる比較的大きなものが多く、中には、スツリアなど50cmをこえる標本もあります。風越層・伊里前層からこれまで報告記載されたアンモナイトは14属で、わが国初のアンモナイト化石報告として知られるホランディテス、ギムニテス、バラトニテスなどがその代表です。