400℃の熱水を噴き出す海底温泉を発見した調査隊は、同時に信じられないほどの異様な光景を目にすることになります。チムニーに群がる無数のエビ、カニ。管状の謎の生き物、チューブワーム。鱗に覆われた足を持ち、鉄でコーティングされた巻貝、スケーリーフット。これらは光の届かない深海底において、私たちの光合成による食物連鎖とはまったく異なった生態系を持っていたのです。
生態系のもととなるのは、熱水孔から噴出する硫化水素を酸化させてエネルギーを作り出すことができる、化学合成細菌です。熱水孔に群がるチューブワームや二枚貝(シロウリガイ類など)の生物群は化学合成細菌を体内に棲まわせ、硫化水素を取り込み、体内の化学合成細菌に与えます。すると、化学合成細菌は硫化水素を酸化させてエネルギーを作り出し、宿主であるチューブワームや二枚貝に返すのです。このようにお互いに助け合って生きることを共生といいます。人間にとっては猛毒である硫化水素をエネルギーにして、これらの生物群は水深3000m、400℃の熱水の海底温泉のまわりで、不思議な世界を繰り広げているのです。
長い間、最古の生命の化石は、オーストラリア北西部のピルバラ地方から発見された約35億年前のシアノバクテリアの化石であるとされてきました。シアノバクテリアは浅い海で光合成をすることから生命は光合成が行えるような浅い海で生まれたと解釈されていました。
ところがこれに対して、東京工業大学の研究ブループは異なる説を打ち立てます。シアノバクテリア化石を含む地層には、海底熱水活動の証拠が数多くあり、生命は、海底熱水活動の盛んな大西洋中央海嶺などの深海で生まれたとしたのです。
全生命体を、遺伝子解析をもとに分類してみると、地球上の全生物は原核生物と、私たち人間を含む真核生物に大別されます。原核生物は古細菌と真正細菌に分けられ、過去にさかのぼって行くと、すべての生命体は1つの祖先になります。生命の起源となるこの生命体は共通祖先(コモノート)と呼ばれています。
系統樹をみると、共通祖先に近い生物ほど、生息温度が高いことがわかります。このことからも、生命は高温環境で誕生し、低温環境へと進出していったことが推測されます。このように生命は黒鉱で見られるような海底熱水孔で誕生したと考えられるのです。
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