世界でも有数の火山国である我が国は、古より多くの火山災害にみまわれてきました。例えば約15000人もの犠牲者を出した、1792年の雲仙普賢岳の噴火とそれに伴う津波は、「島原大変肥後迷惑」という言葉で人々の間に記憶され、数多くの文書にも記録されています。このように日本では、噴火や地震などの大きな異変があると、文書に残す習慣が10世紀ごろの昔よりありました。
私たちが今回調査を行った、中華人民共和国と朝鮮民主主義人民共和国との国境に位置する活火山 白頭山 は、大陸アジアでは異例なほど活動的です。地質調査にもとづくと、過去2000年間では10世紀に世界最大級の大噴火が発生していたことが明らかです。白頭山周辺では、このような異変を公式に記録する習慣のある王朝が支配していましたが、不思議なことにこの大噴火に関する文書の記録は今のところ一切見いだされていません。
10世紀噴火はどのような噴火推移をたどったのか。人々と歴史にどのような影響を与えたのか。この噴火はなぜ記録に残されていないのか。数多くの疑問がわき起こりました。これらの疑問を解決するため、私たちのグループは10年前より現地におもむいて調査研究を開始しました。しかし、現地は中国と朝鮮との国境地帯という政治的に複雑な場所です。脱北者問題、歴史認識問題、領土問題など様々な問題もからみ、調査研究は困難をきわめました。さらに最近は地震活動の活発化という状況も加わり、白頭山に関する謎はいっそう深まるばかりでした。
これらの深まりゆく謎に対して私たちはどのように認識し、どのような調査を行い、何が理解できたのか。さらに、今後これらの謎を解き明かしてゆくためにはどのような努力が必要なのか。私たちが感じたことをできるだけわかりやすく展示していきたいと思います。どうか、ゆっくりとご覧ください。
東北大学東北アジア研究センター 名誉教授 谷口宏充