白頭山の10世紀巨大噴火
東北アジアセンター・総合学術博物館共同国際研究プロジェクト
白頭山(中国名:長白山)は中国・北朝鮮国境に位置し、標高約2700m、東西200km、南北310kmの大きさをもち、東アジアを代表する活火山の一つです。白頭山は数千年前から何度も噴火活動を繰り返しており、10世紀には有史以来最大の火山爆発を起こしたと考えられています。
近年の有珠山や三宅島の噴火のように火山の活動は我々の生活に少なからぬ影響を及ぼします。中国東北部ではこの巨大噴火と時期を同じくして「渤海王国」から「遼(契丹)」に王朝が変遷しています。この王朝変遷に巨大噴火が何らかの関わりをもったのではないのかと考えられます。
しかし、この10世紀の巨大噴火については、古文書などに一切記録されておらず、詳細は明らかではありません。私たちはこの巨大噴火の全容を明らかにするとともに、その巨大噴火がその地域の人々に対しどのような影響を及ぼしたのか、さらには王朝変遷にどのように関わってきたのかを明らかにするため、日中韓の共同プロジェクトを発足させ、この問題に取り組んでおります。
巨大噴火の爪痕
これまでの研究により、10世紀の巨大噴火による降下軽石堆積物、火砕流堆積物ならびに土石流の分布は、火口から数十キロメートル以上に達し、付近の生態系ならびに人類社会に大きな影響を与えたことが予想されます。また、この噴火の総噴出物量は50~172立方キロにも及ぶと考えられています。これは、1991-1995年の雲仙普賢岳(総噴出物量0.25平方キロ)の200倍以上にも達します。
10世紀巨大噴火によってもたらされた噴出物並びに土石流の分布を、図の雲仙普賢岳の1991-1995年火山噴火のものと比較すると、約10倍のスケールの違いがあり、普賢岳噴火の被災地は左図の10キロメートル圏内に入ってしまいます。白頭山の噴火が非常に巨大であったことを知ることができます。
この白頭山の巨大噴火がもし蔵王で起こったとしたらどうなるでしょうか。山形には火砕流が到達し、また、仙台にも土石流が流れ込み、市街地には厚さ25メートル以上に及ぶ土砂が堆積し、大きな被害をもたらします。
しかしながら、このような巨大噴火はこれまでの蔵王の噴火の歴史には認められていません。また、世界的に見てもこの規模の噴火は数千年に1度の頻度でしか起こっていません。
噴火の恐怖
降下軽石・降下火山灰
大規模な噴火では、大量の火山灰や軽石が放出され、噴煙は成層圏にまで達します。10世紀の巨大噴火では広範囲にわたり火山灰や軽石を堆積させ、火山灰は偏西風にのって、遠く日本まで運ばれたことが確認されています。
火山灰は雨水を含むと5cm程度の堆積量で家屋の倒壊等を引き起こします。また、土壌への灰の混入により農地は破壊され、農作物に被害をもたらします。
火砕流
噴火により放出された火山砕屑物とガスの一部は、火砕流として時速百キロメートルの速さで山体を駆け下っていきます。火砕流は500-700度の高温で付近の山林を飲み込みながら進み、流走路の全てのものを破壊・埋積します。
10世紀の巨大噴火で発生した火砕流の堆積物は数10メートルに達し、谷や斜面を埋積して台地状の地形をつくり、これにより山容は一変したと考えられます。
土石流
噴火により堆積した大量の火山噴出物は、大雨のたびに川に流れこみ、土石流へと変化します。大量の土砂の流入は河床を埋め立て、下流域で大洪水を引き起こします。また、土石流は川に沿って流下するため、最も広範な地域に被害をもたらす可能性があります。
白頭山では、火口から約60km離れた両江付近では厚さ25m以上にも及ぶ土石流堆積物が確認されました。
謎に包まれた噴火
女神「日吉納」 - 白頭山の火の魔人を降服
白頭山(長白山)の火の魔人が暴れつづけていた頃、日吉納(リジナ)は天鵞を駆って天を翔け、天帝を訪ねた。天帝の教えの通り、日吉納は氷を抱いて白頭山火口に到り、火の魔人の腹に入り込んだ。まさに天は崩れ、地は裂け、その巨声は満天に鳴り響き、やがて煙は止み、火は鎮まった。山はようやくもとの姿を取り戻し、火口は大きな湖と化した。天池である。
<満族神話から>
「日吉納」
日吉納は巫(女性シャーマン)の表象である。 シャーマンはその賽神の世界であらゆる存在に変化[へんげ]する。
「満族」
アルタイ語系種族は、大きくモンゴル語系、チュルク語系、ツングース語系に分けられ、そのツングース語系の中で、中国東北部を中心に生活した満(州)族は非常に大きい民族である。近くは中国大陸において17世紀から20世紀にかけて「清」という巨大王朝を建設し、12世紀頃には「金」、また8世紀から10世紀にかけては「渤海」王朝を建設した。
民族の名称は時代によって女真、靺鞨、勿吉、邑楼、粛慎など称されてきたといわれている。