博物館教育におけるインターネットの活用の現状調査報告 2006年3月
博物館来館者が実際に展示室で過ごす時間は20分程度といわれています。この短い時間の中で展示内容を効率よく来館者につたえる工夫が博物館に求められており、展示内容の伝達方法のひとつとしてインターネットの活用が注目されています。
総合学術博物館がカメイ社会教育振興財団の助成をうけて実施した現状調査から、スミソニアン協会では博物館サイトが提供する「教員のための展示ガイド」が博物館展示教育のなかで重要な役割をはたしていることがわかりました。
その後、スミソニアン協会以外の博物館を調査してみると、アメリカ合衆国の比較的規模の大きな博物館では「教員のための展示ガイド」の提供が普及しつつあることがわかってきました。
そこで、再び同財団の助成をうけて、2006年3月1日から3月10日の日程で、「教員のための展示ガイド」と実際の展示内容、展示方法の関連を実地調査するために、スミソニアン国立自然史博物館(ワシントン・コロンビア特別区)、国立アメリカ自然史博物館(ニューヨーク市)、ハーバード大学博物館(ボストン市)、州立デンバー自然と科学博物館(デンバー市)、カリフォルニア州立大学バークレー校古生物学博物館(バークレー市)、カリフォルニア州科学協会自然史博物館(サンフランシスコ市)を訪問しました。
教師のための展示ガイド
「教師のための展示ガイド」は、博物館見学を学習機会として有効に活用するために漫然と展示や解説を見るのではなく、「展示の観察を記録し、言葉としてまとめる」ことが効果的であるという考えのうえに、博物館展示が「見る・聞く・触る」といった五感を通して体験させることで来館者の理解を助けるのに対して、体験した現象の理解のために、観察結果を記録し、言葉として表現することを目標として作られています。
このプロセスは、実際に科学者がおこなう調査・記録・考察というプロセスのシミュレーションとなるようにも意図されています。
今回の調査から「展示ガイド」の内容項目をまとめると、展示テーマや視点に関する展示概説、会場マップ、サブテーマ区分と区分意図の解説、展示内容を理解するために必要な知識の予習のための項目チェックシート、展示室で展示観察のためのフィールドノート、観察方法や記録方法の解説、記録や資料整理のためのチェックシート、さらに学習を進めるための参考資料へのアクセス方法、用語リスト、学年別学習プラン案となっていました。
知ることと変わること
前回は担当者へのインタビューによる調査をおこないましたが、今回は事前にインターネットから入手した「教師のための展示ガイド」をもとに展示を見学し、両者の関連性を体験的に評価することにしました。
スミソニアン自然史博物館、アメリカ自然史博物館、デンバー自然と科学博物館およびカルフォルニア科学協会自然史博物館では「教師のための展示ガイド」が準備されていますが、ハーバード大学自然史博物館、カルフォルニア大学古生物博物館では展示内容の簡単な紹介程度の情報しか入手できませんでした。
これら2つの博物館群を見学した結果、「展示ガイド」を来館前に入手できる場合と入手できない場合では見学方法自体がことなり、「展示ガイド」が入手できた場合、観察対象がより具体的なものとなり、そのため展示理解が非常に容易であることがわかりました。
具体的には見学前の展示内容を理解するために必要な知識の解説や展示室でのフィールドノートの活用は、観察したことを言葉に表すために解説文の中から適当な文章を抽出するための助けとなっており、また、展示資 料の観察項目が指定されていることから詳細な観察の契機となっていました。さらに、フィールドノートに観察を記録することで全体のまとめを助け、見学後の事後学習に結び付けやすいこともわかりました。
さいごに
博物館見学を体験的学習として効果的なものとするために「展示の観察を記録し、言葉としてまとめる」ことを学習目標とする「教師のための展示ガイド(見学フィールドノート)」を見学前の来館者に提供するシステムの導入が有効なことがわかりました。
さらに、「教師のための展示ガイド」を一般来館者向けに内容を拡張した「展示ガイド」を提供できるならば、生涯学習者の利用の支援としても効果的なインターネット活用と考えられます。